橋本智穂
HASHIMOTO Chie
伊藤研究室
大学に入って、数学に対する私の考え方は全く変わりました。高校までは、数学といえば与えられた方程式を解いて値を出すことでした。しかし、工学部の現場で出会うほとんどの現象は非線形なので、厳密に方程式を解くことはできません。私は卒業研究で物質の熱力学を学んでいます。その中に、 up‐hill diffusion reaction で記述される現象が出てくるのですが、それは大変強い非線形方程式になります。それでも反応をコントロールすることによって、この方程式にもとづいて特定の物性値を有する析出相同士を合体成長させることが可能かどうかについて、結論を出さなければならないことが起こりました。実は、これが絶対に不可能であることが最大値原理という幾何学的、定性的な手段によって明確に証明できたのです。方程式を実際に解かなくても、必要な情報が得られるということに驚きました。このことで私の数学観は全く変わりました。無駄な実験をして、絶対に手に入らないものを追い求め続けるようなことをしないですむことを幾何学が教えてくれたのです。これが工学部における本当の応用数学なのだと思いました。