鄭翀

数学で人間性を高め、模範的な
アクチュアリーになりたい

鄭翀
ZHENG Chong
小山研究室 博士1年
Q.早稲田大学に留学した経緯を教えてください。

私は中国の最北端、黒竜江省ハルビン市の出身です。父が中国で保険会社に勤めていることもあり、保険業界を身近に感じていたこともあって、アクチュアリー※として働きたいと考えるようになりました。
数学を勉強するとともに、物事を順序立てて考えることの重要さを学んで数学者になろうと考えるようにもなりました。また、せっかく大学で学ぶのであれば、知識や技術を身につけるだけでなく、人間性の向上にも繋がるようなところで学びたいと考えていました。
そこで、中国はもちろん、欧米や日本の大学も含めて、さまざまな大学を検討することに。そんななか、中国でも知名度の高い早稲田大学について自分なりに調べてみると、「模範国民の造就(ぞうしゅう)」という建学の理念を発見。この部分に強く惹かれた私は、早稲田への進学を決意したのです。
しかし、時は2011年の冬。東日本大震災の後で、日本への風評も多く耳にした頃です。周囲から反対されることも覚悟しましたが、家族は私の背中を押してくれました。

※統計や確率などを活用し、将来のリスクを分析・評価する専門職。生命・損害保険・年金の分野の商品開発に関わることで知られている。

トポロジーは前提条件から疑う学問

Q.研究の概要を教えてください。

私の専門は代数的トポロジーです。トポロジーとは、図形を平行移動や回転、裏返し、拡大縮小など、変形をしても変わらない性質を見出すことを目的としています。更に代数的な手法を用いる分野を代数的トポロジーといいます。
よく知られているのが、コーヒーカップとドーナツの例です。これらを自由自在に変形できるゴムのようなものと仮定すると、コーヒーカップの取っ手部分を変形することで、ドーナツと同一の形にすることができます。このような性質が認められる場合、トポロジーでは同じ図形とみなすことができるのです。トポロジーは、「同じ」とは何かを、前提条件から定義する学問と言えます。

Q.現在の研究を選んだのはなぜですか。

保険数理や確率統計などの、アクチュアリーに直接関係する分野を学べるので、 学部2年生の学科選択の際には、応用数理学科を選びました。
学部時代には、アメリカのアクチュアリー試験を受けました。当時は純粋数学の知識も足りず対策するのに多くの時間がかかったので、より純粋数学に近い分野を学ぶことができそうな小山研究室の門を叩くことにしたのです。当初は早くアクチュアリーになりたいと思っていたので、純粋数学の知識を身につけて、資格取得の勉強に本腰を入れるつもりでいましたが、研究室に入ってみるとトポロジーの面白さから抜け出せなくなり、博士課程まで進んでしまいました。

Q.将来はどのようになっていきたいですか?

留学当初に抱いていたアクチュアリーへの想いは変わっていませんが、博士課程を修了したら保険会社への就職の他に、数学の研究職も検討しています。
学部生の時に、夏休みを利用して中国本土で保険会社のインターンを受けました。2ヶ月に及ぶ長期のインターンでしたが、アクチュアリーになるためには、経済学や金融の知識を増やす必要性を感じました。
私は中国人ですが、「模範国民の造就(ぞうしゅう)」という建学の理念を体現できるような人間に成長したい。そのとき、数学の知識を活用できていたら最高ですね。