南 優希

人に「生命エネルギー」があると
仮定し、保険数理に新たなモデル
を提案する

南 優希
MINAMI Yuki
清水研究室 修士1年
Q研究内容を教えてください。

生命保険や損害保険の加入時に、生命表というものを見たことがある方もいるかもしれません。これはある年の年齢、性別ごとの死亡率の一覧表で、保険料算出の基準となるものです。現在、生命表推計にはLee-Carterモデルというモデルが用いられているのですが、近年の健康寿命の伸長や死亡率の低下などにより、予測値が現実のデータと合わなくなってきています。
そこで、私の所属する清水研究室で開発したのが、「生命エネルギーモデル」です。
これは人間に「生命エネルギー」が存在すると仮定し、このエネルギーがゼロになった瞬間を死亡時刻と定義して、その確率分布によって死亡率を推定するモデルです。
具体的な手順を説明します。まず、ある年に生まれた人がある年齢までに死亡している確率を生命表のデータからグラフ化すると、誕生から少しずつ死亡率が上昇していき、60代から急激に増加するというグラフができます。
次に、生命エネルギーのモデル化ですが、平均変化率μ、分散σの確率過程に従うと仮定します。そして、先ほど述べたグラフに合うようなμとσを推定します。当初は、このμやσが生涯を通じて一定としていたので、60代からの急激な死亡率上昇を追従できなかったのですが、この部分は清水先生のアイデアで「変化点」を設けることにより、突破することができました。
最後に、先ほどのやり方で推定した30年分のμとσから、将来のμとσを予測します。当初は、μの値を線形予測していましたが、これが大きな問題点でした。なぜなら、μはエネルギーの平均変化率なのでプラスにはならないと考えられますが、線形予測をすると、ある年代からμがプラスになってしまうからです。この問題により、40年後から70年後くらいの長期死亡率予測をすると、大きな誤差が出てしまっていました。そこで、線形予測ではなく、プラスにならないような指数的予測をする工夫を施しました。これにより、70年後まで実際のデータとほぼ誤差のないモデルにすることができたのです。

研究は机上で考えるだけでなく、手を動かすことが大事

Q研究で苦労したのはどんなところですか?

「生命エネルギー」という発想自体が、清水研オリジナルのもので、先行研究がありません。ですから、何をするにも参照できるものが少ないので、その部分は大変でした。
実作業はマセマティカ (Mathematica) という数式処理システムを使って、プログラミングしていくのですが、それも骨が折れました。
何か新しいアイデアを閃いても、それを「実際に動く」プログラムにして初めて、新しいアイデアや方式の良し悪しが判断できるようになります。プログラミングに関しても、先行事例がないので、流用できる部分はあまりありませんでした。
つまり、数学的な概念を考案することと、それをプログラムにすることの2段構えで研究を進めなくてはなりませんでした。頭の切り替えが難しかったですね。
モデル制作は、5パターンほどの数学的なアイデアを検討しました。ざっくりいえば数式です。予測に有効だという仮説のもとに、数式を検討するわけですが、それが正しいかどうかは実際に動かしてみないとわからない。もちろん、熟慮を重ねた上での作業ですが、手を動かし続けて、結果を見て改善するという、理論だけではない泥臭い部分もありました。
このあたりは純粋数学と違うところかもしれません。あくまで応用を見据えて、数学を使うのが応用数理学科の特徴だと思っています。

将来はアクチュアリーとして活躍したい

Q将来はどのようになっていきたいですか?

損害保険会社か、生命保険会社でアクチュアリーとして働きたいと思っています。アクチュアリーとは、将来のリスクや不確実性の分析、評価等を専門とする専門職で、保険商品の開発には欠かせない存在です。資格取得までに平均8年かかるという難関です。
じつは、先行研究のない分野を選んだのは、まだ誰もやっていない難しい研究なら、ぜひやりたいと思ったことがきっかけです。
私は、難しくて大変なことに取り組むのが好きなのだと思います。乗り越えた時の達成感は格別ですし、難しいことを解決したい、理解したいという好奇心がとても強いのです。
だから、きっと試験も乗り越えられると思います。将来立派なアクチュアリーとして活躍するために、まずは目の前の研究に全力で取り組みたいと思っています。