高橋大輔

数理物理には、
世界を記述する力がある

高橋大輔
Daisuke Takahashi
教授、工学博士
Q 高橋先生の研究に「アナログとデジタルを結ぶ新しい数学」とあります。例えば昔の針で音を拾っていたLPレコードと今のCDとでは、全く世界が違うと思うのですが?

アナログとデジタルが先にあるわけではないですね。レコードとCDを例に取ると、どちらも対象は音楽です。まず音楽があって、それを数学的に表現する方法にアナログとデジタルがある、ということです。

アナログを科学にあてはめてみると、物理や化学でニュートンたちが発見した微分・積分を使って方程式を作り解を求めるという世界です。たとえばなめらかな波が水面を伝わるというような連続的な現象は、流体力学を使って微分方程式で表現できます。デジタル方程式でも同様に水面波のような現象を表すことができますが、それを解析するための道具が不足しているのです。デジタルの世界にもそういう数学があるはずだ、ということで「デジタル微積分」という名前をつけて研究しています。

アナログでもあり、デジタルでもある、という新しい数学

アナログでやっていることを、数学的に厳密な一定の手続きを踏めば自動的にデジタルに持ってくることができる。そういう結果が出始めたのです。ということは、同じ対象に対して表現手段が違うというだけですから、アナログでもあり、デジタルでもある、というような数学と対象がある、ということになります。それを今創ろうとしているのです。

Q そういう数学ができると、どうなりますか?

アナログの数学は物理と同じように発達していて、めざましい成果がたくさんあります。アナログの数学をデジタルに翻訳することができれば、アナログが築き上げてきた膨大な成果をそのままデジタルに持ってくることができます。

たとえば交通渋滞は遠くから見れば連続な波の変化に見えます。そこでアナログの流体の方程式をデジタルに置き換えることができれば、車のように離散的な物体が主役の世界に数学を応用することができます。波と波の追い越しと同じように、1台ずつは離れている車が次にどうなっていくか予測することができるのです。

Q ところで、高橋先生にとって「応用数理」とは何でしょうか?

もともと私は工学部の物理系学科出身で、4年生の卒論は、大腸菌から棒状高分子を取り出して液晶を作る、というものでした。大きいフラスコにパンを入れて大腸菌を培養し、遠心分離器にかけると、ものすごくきれいな液晶ができるのです。バラバラな結晶がある濃度になるとピンと一斉に揃うような現象を相転移といいますが、その原理を利用した液晶を研究していました。このような相転移は物理化学の法則から最後には数式だけで表され、どの濃度で起こるか予測がつきます。これは数学も勉強しないとダメだなと思いました。

そのあと理論的な数理物理をやっている力学教室というところの流体の研究室に移って、コンピュータ・シミュレーションに取り組みました。流体の数値計算の原理をコンピュータのプログラムに翻訳するのですが、プログラムを書いていると逆に元の流体の微分方程式がよくわかってくるのです。この辺りから目が覚めたように学問がおもしろくなり、物理と数学とコンピュータが自分の中で回り始めました。数理物理には世界を記述する力がある、ということがわかったのです。

若いときに何かに熱中するのは大事なことだ

Q 次代を担う受験生、高校生にメッセージをお願いします。

ロジカルな世界を突き詰めたいなら数学科、モノに応用したいのなら応用数理、です。数学というのは、世界を「論理」によって突き詰めていくことですから、世界観を創ることだ、とも言える。幸い基幹理工学部は一括入試で1年間いろんな分野の店先を覗けるので、じっくり見て決めればいいと思います。

若いときに何かに熱中するというのは大事なことで、それが学問であろうがスポーツであろうがとてもいいことだと思っています。研究室ではいつも言うのです。「何か一つ、俺はこれだよ、というものを持て。俺たちは背中を見せて人を引っ張っていくんだ」と。